僕らが大人になる理由
動揺を隠せずにいると、光流も同じように驚いているようだった。
サラリーマンや大学生だらけの居酒屋に、制服姿の女子高生は当然のことながら浮いている。
真冬は一瞬きょとんとした表情をしたが、すぐに状況を把握したのか、それでも笑顔で由梨絵におしぼりを渡した。
俺はその様子を、少し冷や冷やしながらうかがっていた。
「あっ、あなたが真冬さんですか?」
「え、あれ、そういえばどこかで…」
「たしか駅前のツタヤで…、ホラー映画の…ですかね? もしかして」
「ああ! あのときのっ、うわー、まさか紺君の彼女だなんて…!」
「改めて初めまして」
まさか二人が面識があったなんて…。
そのことに驚いていると、由梨絵がにこっと俺を見て笑った。
「柊人君、ジャスミン茶ちょーだい」
「どうぞ」
「え、あ、ありがとうございます…」
「こちらお通しです」
まるで俺と由梨絵を遮るように、あゆ姉がジャスミン茶を素早く出した。
なんでわかったんだ…。まだ由梨絵注文を言い終えてなかったなのに…。
由梨絵は少し驚いていたが、また懲りずにカウンター越しで俺に話しかけてきた。
「夏休みの補講だったの、今日。終わってから友達と遊んでて、いつの間にかこんな時間になってたから来ちゃった」
「もう20時ですよ。それ飲んだらすぐ家に帰りなさい」
「柊人君と一緒ならいいって、ママ言ってた」
「駄目です」
「ねぇ、今日泊まってっちゃ駄目?」
「由梨絵」
仕事中はあまり話しかけるな、そんな目で見つめたら、由梨絵は眉をハの字にした。
それからちいさく、わかったよ、とつぶやいて荷物をまとめた。
「じゃあ、大人しく帰る」
「帰ったらちゃんと連絡してくださいね」
「はーい、本当柊人君は過保護だなあー。じゃあ、失礼します、光流さん、あゆ姉さん」
ぺこっとお辞儀をして、由梨絵は微笑んだ。しかし光流は終始険しい顔をしていて、会釈すらしなかった。
そのことを不思議に思っていると、由梨絵は小皿を揃えていた真冬の元へ行き、
「真冬さんも、お仕事がんばってくださいね。柊人君無愛想だけど、いい人だからよろしくお願いします」
と言った。