僕らが大人になる理由
俺は素っ気なく「そうですかね」、と答えて食器洗い機のふたを開けた。


「あ、そうだ。なんかまかない食べますか?」

「えっ、いいんですか?」

「簡単なやつなら」

「わーいっ、じゃあうどんがいいです!」

「分かりました。ちょっと待っててください」

「わーい」


食べ物の話になると、ころっと笑顔になる真冬をみて、少し笑ってしまった。

ようやくほっとしていると、真冬がお通しもこそこそと取り出して食べていたので、こら、と頭を小突いた。


「紺君の料理はおいしいからなあ」

「レシピ通りつくってるだけですよ」

「あたし、紺君の料理好きです」

「そうですか」


こんな無愛想な奴の、どこがいいのだろう。自分で言うのもなんだが、つくづくそう思う。

こんなに素直に笑えて、こんなに真っ直ぐな人が、どうして。


「……真冬は今日、無口ですね」

「えっ、喋ってるじゃないですか」


…俺はついつい、核心に迫る質問をしてしまった。

真冬は突然のことに、驚いて咳き込んでいた。

洗い場の近くの冷蔵庫の前で、真冬は必死に喉につかえたお通しのポテサラを水で流し込んでいた。

俺は、真冬に背を向けたまま、ひたすらシンクを綺麗にしていた。


「…今日、やっぱり変でしたか? あたし」

「………少しだけ」

「すみません…、あの、どうしても…」

「もしかして、この間のキスのこと、気にしてますか?」

「う…」

「もう気にしないでください。深い意味はないので」

「そうですよね、もう全然気にしてないです! 今日静かだったのは、ちょっと朝食べ過ぎて気持ち悪かっただけなんで」

「…なんだ、そうだったんですか」
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