僕らが大人になる理由
「よし、決まり。真冬ちゃん来週から12月中旬まで休暇」

「あ、あのその間の家賃諸々は…」

「大丈夫! 年明けたら分割して天引きでいいよ!」

「で、でもあたしあんまり家は居場所ないというか…」

「ちょっと顔出すだけ出してきなさい」

「………」

「きっと心配しているよ」


……心配。

そうかな。心配、してるかな。

いや、ありえない。だってなにも心配のメールなんてこないもの。

あたしも、なにも連絡していないけど。


……嫌だな。あの家は息が詰まる。

帰りたく、ないな。だけど、帰省すれば紺君と顔を合わせなくて済む。


「お姉ちゃん帰んなきゃだめだよー、孝行したい時に親はなしって言うからねー」


少し暗い気持ちになっていると、常連のお客さんに背中をポンとたたかれた。

お客さん達は、そうだそうだと頷いて、あたしを実家に顔を出すよう促した。


「しばらく真冬ちゃんの笑顔が見れなくなっちゃうのは悲しいけど、帰ってあげなあ」

「たしかに寂しいねえ」


お客さんの言葉に、思わず胸が熱くなった。

ここで働いて、もう8カ月が経ったんだ…。

しょうもないミスをしたり、変なお客さんに絡まれたり、告白されたりふられたり、本当に色々なことがあったけど、あたし、あの家を離れて、自分で働いて稼いだお金で、半年以上も暮せたんだ。

何も知らなかった高校生時代よりは、ほんの少し自立できただろうか…。

もしかしたら、今の自分なら、家に帰って、親に会ってなにか変わることがあるかもしれない。

ほんの少しだけ、そんな風に思うことができた。


「うんうん、真冬ちゃんは本当に成長したよねえ、最初はミスばっかだったのに」


店長も嬉しそうに微笑んでくれた。

その言葉があまりに嬉しくて、照れくさくて、笑ってごまかした。
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