僕らが大人になる理由
思わず口から出てしまった言葉に、由梨絵は表情を強張らせた。
それから、俺から少し離れて、ソファーの上で体育座りをした。
由梨絵の肩は小刻みに震えていた。
「もしかして、知ってたの…?」
「…一通りは」
「光流君がっ」
「彼が言ったんじゃありません。最初から知っていました」
「じゃあ、なんで、怒らなかったの…? わたし、浮気してたんだよ…?」
「由梨絵、じゃあ、俺も聞きますよ。浮気してたのに、なんで心が痛まなかったんですか?」
「っ」
そう言うと、由梨絵はぽろっと涙をこぼした。
それから、掠れた声で、
「分からない…。感覚が麻痺してた…」
と、呟いた。
「…俺は、浮気されていたことより、そっちの方がずっとずっと、堪えました」
そう言うと、由梨絵は眉をハの字に曲げて、みるみるうちに泣き崩れだした。
俺は、もう一度由梨絵の手に手を重ねて、ソファーから降りて、床に膝をついて、由梨絵を見上げた。
由梨絵の涙が、俺の頬にも落ちた。
「柊人君は、わたしの物でしょ…。一生、わたしだけの物でしょう…?」
「………」
「愛してくれるのは当たり前でしょう? わたしだけを、ずっと、ずっと」
由梨絵の口から出た本音を聞いて、彼女はあの日から何も変わっていないと分かった。
“あんたが来たせいで、あんたがわたしより注目されるせいで、誰もわたしを見てくれないっ”
“皆わたしのことを好きになってよっ! もっとちゃんと愛してよっ”
どうしても満たされない心が、彼女をこんなにも追いつめてる。
俺がこの家に来たせいで。
俺の、せいで。