彼の腕の中で  甘えたくて
「主任、天気が良くて出張日和って感じしませんか?」

「河野くん、それ以上リラックスしないでちょうだいね。念のため言っておきます。」

「はいはい、わかりました。」

私は同じ部の後輩河野徹を同行させて新宿から甲府までノンストップの特急で移動した。

出張は1泊2日の予定で駅前のホテルを予約していた。

この時期は紅葉狩りでビジネスホテルはどこも満室だった。

高級な温泉旅館や一流ホテルも殆ど満室だった。

出張にしてはやや高い経費になってしまったが、宿泊費のオーバー分を食費で何とかカバーするしかなかった。

もしくは食費を自腹で切るしかないと思っていた。

「僕、ここへは初めて来ました。武田信玄とか昇仙峡で有名ですよね?」

「まずはチェックインしましょうか?」

私は彼に構わず駅の改札口からスタスタと歩いて駅前のロータリーへ向かった。

「主任、待ってくださいよ。」

正面のロータリーでは大きな噴水から時々水しぶきが飛んできた。

ぐるりとタクシーが列を成し、観光バスや高速バスが何台も停車していた。

外国人の旅行客も多かった。

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