彼の腕の中で  甘えたくて
「確か正面とは逆の裏手にあるって聞いたんだけど。」

私は振り返ったが駅ビルがそそり建っていて裏手など全然見えなかった。

「徒歩2分って本当かしら?」

「主任、ホテルどこですか?」

「ここなんだけど。」

「どれ?」ネットで調べてコピーしたものを彼に見せた。

「駅の裏ですね。あそこから行けるかも。」と彼が指差したのは左手の裏へ通じる横道だった。

トンネル状になって歩く足音がコツコツとこだました。

その道を抜けたら目の前に巨大なホテルが建っていた。

「すっげぇ!まるでディズニーリゾートみたいだ!」

彼と私は目を丸くしてそのドデカイ純白のホテルを見上げた。

どうりで高いはずだわ。

シングルとはいえ1泊15000円もした。

「河野くん、荷物を置いたらロビーに来てちょうだい。すぐ物産展の会場へ行くから。」

「何時ですか?」

「ロビーに10時45分ね。」

「わかりました。」

私と彼はフロントで別れ、各自の客室へ上がった。

階が違うし、建物も左右のウイングに離れていた。

私は大きい方のバッグを置き、顔を直してから、ショルダーバッグとデジカメを持って部屋を出た。

ロビーへ降りていった。

河野徹は出張の意味がわかっているのかしら?と私は眉間にシワを寄せた。

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