彼の腕の中で  甘えたくて
「どうぞ、こちらの赤ワインをお試しください。」

「私、赤はちょっと。」

「だまされたと思ってひと口含んでみてください。」案内人は丁寧だった。

「どうですか?この感じはいかがですか?」

「すごくまろやかだわ。白よりも。」

「色はどうですか?」

「色?」

「この赤はここでしか造られていません。蔵の外に近い所で色をご覧になってください。」

明るい外へ出る手前まで歩き、薄暗い蔵の中でグラスを掲げた。

グラスの中で赤い液体が揺れた。

「赤紫色かしら?それとも紅紫?黒っぽい赤かしら?」

「ベルベットローズと言います。」

「ベルベットローズ!素敵ね。」

私はそのネームにうっとりした。

「陽に当たると普通のワインレッドに変化してしまいます。ベルベットローズは暗闇でしか生きられません。」

「増々素敵だわ。神秘的で。」

「気に入っていただけましたか?」

「ええ、とっても。」

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