彼の腕の中で  甘えたくて
私はソファに腰掛けて初めて気がついた。

窓際にスーツ姿の男性が一人こちらに背を向けて立っていた。

私の他にもドックに入った人がいたことに初めて気がついた。

「あの、人間ドックを済まされた方ですか?」

「そうだよ、由衣さん。久しぶり。」

「高野くん?わぁ偶然ね。びっくりしちゃった。」

「こんな所で由衣さんと昼食べれるなんて、俺、感激。」

「えっ?」

さっきのクラーウがお盆を持って入ってきた。

「どうぞ、ごゆっくりお召し上がりください。」彼女は静かに部屋を出て行った。

「さっ、食べよう。由衣さん、苦手な寿司ネタがあったら取り替えてあげるよ。確かイクラが嫌いだっただろ?俺ちゃんと覚えてる。」

高野くんって細かい。

こんな人だったかしら?

彼と私は以前同じ会社で働いていた。

今はもうその会社はなかった。

経営不振で潰れてしまったのだ。

彼に会ったのは4年ぶりくらいだった。

私達は食べながらあれこれよもや話に花が咲いた。

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