彼の腕の中で  甘えたくて
「気分が悪いわ。」

「主任、ご気分が悪いんですか?ワインの飲み過ぎじゃないですか?部屋まで送りますよ。」

何を勘違いしたのか河野くんは私のショルダーバッグを持ち、私の腕まで支えて歩き出した。

まぁいいか、少し歩き疲れたことだし、エレベーターの中で壁に寄りかかった私を見て彼はさらに心配そうだ。

河野くんっていくつだったかしら?と思いながら目を閉じていた。

「河野くん、ありがとう。大丈夫よ。何でもないわ。夕食までフリーにしましょう。上のレストランで待ち合わせることにして、時間は6時半でいいかしら?」

「わかりました。僕がデジカメをPCへ落としておきますから、主任は横になっていてください。」

「お願いするわ。じゃあ後でね。」

「はい。」

私はパンツスーツを脱いでハンガーへ吊るした。

部屋はシングルなのに少し広めだった。

まだ5時だった。

シャワーをザッと浴びて顔を直した。

Tシャツとジャージを着てベッドにころがった。

ファイルを広げてフレーズを追加した。

次の新作はワインレッドのストッキングに決めた。

赤ワインに興味がなかった私は、この日を境にとことん赤を飲んだ。

後々京也もそのことに驚くこととなった。

但し、赤ワインは歯に色素が沈着しやすく、歯磨きに悩むことになるとは思わなかった。

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