彼の腕の中で  甘えたくて
「主任、乾杯しましょう。今日はお疲れさまでした。」

河野くんはラフな服装に着替えていた。

ジャケットは紺だった。

だから余計若く見えた。

大学生でもとおるわ。

「主任、私服ですね?いつもスーツ姿だから、普段の顔が想像できませんでした。」

私は落ち着いた草色にクサビ色とゴールドが混ざった柄模様のシフォンのワンピースの上に黒レースのボレロを羽織っていた。

ネックレスは京也からプレゼントされたスワロスキーのチェーンだった。

「主任、白じゃなくていいんですか?赤はお嫌いだったんじゃ?」

「いいえ、今日最後に試飲した赤ワインのとりこになってしまったのよ。河野くんはどう思った?」

「そうですね。僕はワインよりビール派だから。」と言ってビールの入った縦長のグラスを持ち上げた。

「全てPCに落としておきましたから明日見てもらえますか?」

「ええ、明日の予定はワイナリーを幾つかハシゴするんだったわね?」

「5ヵ所です。」

「予定を変更して、さっきのワイナリーだけに絞るわ。」

「なぜですか?」

「女の勘よ。明日また会ってもらう約束を取ったわ。」

「さっきの蔵の人にですか?」

「それとオーナーにもね。」

「主任に何かを学べって言われてきました。」

「何か学べたかしら?」

「いいえ、まだ何も。」

「そう、でも明日1日私と一緒なら、一つくらい学べるわよ。」

「はぁ。」

< 21 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop