彼の腕の中で  甘えたくて
「このワインは僕の一番好きな味なんだ。葡萄の森という珍名が付いている。黒々とした深い森を抜けるとそこは一面葡萄畑だ。このワインはその葡萄畑で作られた葡萄だけを使っているというわけだ。」

「その話、面白いわ。本当の話なのかしら?」

「事実だよ。実際に行ってみた僕が言うんだ。間違いない。」

「ロマンチストなのかしら?普通そこまでしないわ。」

「君だって同類だろ?あのベルベットローズに惚れ込んでストッキングを作ったんだ。普通そこまでしない。」

二人で笑った。

彼と話が弾んだ。

パエリアもワインも私を満たしてくれた。

今夜はショーの後だったし、彼が相手をしてくれて充実できた。

年内はインタビュー以外は何もなかった。

工場のラインも確保してあった。

品切れは避けたかったので在庫も予想より2割増しで積んであった。

案の定追加オーダーの山となり、ルートも目一杯だった。

私が考案した3商品は飛ぶように売れた。

この仕事にも心を満たされた。

でもたった一つ満たされてないものが残った。

「京也、土曜も出勤なの?」

「12月は全部出だ。体がもつかな?」

「大丈夫?」

「ダメかも、由衣のせいで。」

「意地悪ね。」彼と軽くキスをした。

京也と過ごせるのは日曜だけになってしまった。

欲求不満ってこういう感じのことを言うんだわ。

私は初めて味わった。

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