彼の腕の中で  甘えたくて
デスクの上にきれいにラッピングされたポトルがのっかっていた。

カードを読んだ。

「誰と飲んでも君の期待を裏切らない!」

送り主は前原聡と書いてあった。

彼と食べたパエリアを思い出した。

彼は来期のショーも自分が担当したいと言っていた。

あの夜は二人でワインを飲みながらよくしゃべった。

私を誘っているのかしら?

ドキドキした。

一瞬想像できた。

彼の腕の中にいる自分を。

「主任、ファンが多いですね?」後輩の河野徹。

ポヤッとしている割りには鋭い。

出張も年内は入っていなかった。

「河野くん、学生時代は放送部だったんじゃない?」

「どうして知っているんですか?僕が校内放送のDJだったって。」

やれやれ、私は首を振って頭を切り替えた。

前原主任にはお礼をしなければ、でも今は考えたくなかった。

「主任、来期も僕に同行させてもらえませんか?ヒット商品の裏事情をレポートしたいんです。」

「河野くん、課長がレポートを見て何か言ってなかった?」

「おまえはレポーターとしては一人前だと言われました。」

「その通りだわ。来期は私と別行動をとってみるのも悪くないんじゃないかしら?」

彼は私を見つめて返事をしなかった。

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