彼の腕の中で  甘えたくて
俺は彼女をこのまま連れて帰りたいと思った。

返事はノーだろうか?

だがまた会えるだろうと思った。

「抱きしめてもいい?」

ギュッと小柄な彼女を抱きしめた。

「ちっちゃくて腕があまるよ。もうちょっと力を抜いて。」

彼女は少し力を抜いた。

「俺の腕の中でどうにかしたい。」

「く、苦しい。そんなにギュッてしないで。」

「ごめん、つい。」

「私、もう行かなきゃ。必ず返事するから。」

「返事はイエスだよ、わかった?」

彼女は俺の言葉に笑っていた。

「じゃ、お先にね。」

俺の想いがこんなにも強かったなんて、俺自身気づかなかった。

もう何年も会ってなくて忘れていたのに。

いや、忘れようとしていたんだった。

目の前にまた彼女が現れたことで俺はまた苦しめられるのか?

彼女をこの腕に抱ける日を指折り数えて待つなんて狂うだけだ。

今度こそおかしくなっちまうかもしれない。

着信『高野くん、今度の土曜、会える?由衣』

『もちろんだ。ありがとう。京也』送信。

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