しっとりと   愛されて
その日、私はまた専務に呼ばれた。

午後の専務室は、日当たりが良くて暖かかった。

「この間ドックへ行ってね、その後精密検査を受けた。さっき診断書が届いたんだ。保険会社へ提出すれば、保険金が受け取れる。私が加入しているのはガン保険だ。封を切ってみよう。」

専務は私をデスクの前に立たせたまま、ベーパーナイフで封を切った。

そして中身の診断書を広げて、私に読むよう手渡した。

私は震えた。

手が震えた。

専務の診断書には確かに肺部の悪性腫瘍と記されていた。

「読、読めません。」

「ならいい、自分で読むよ。」

私が震える手で診断書を専務に返すと、彼はさっと目を通した。

「君の言う通り、もっと早く葉巻を減らしていればよかったな、もう手遅れだが。」

私の耳に専務の声が静かに響いた。

私は専務の言葉に涙が溢れた。

「君のこぼれる涙がダイヤモンドに見えるよ。」

私の涙はポロポロと頬をつたって制服に染み込んだ。

専務は立ち上がって私のそばに来た。

「君を泣かせてしまったな。君が苦しむところは見たくない。」

そう言って、私をそっと抱きしめた。

専務の胸は大きくて私を包み、私は専務の腕の中で静かに泣いた。

「私のために泣いてくれるのか?今ほど君に癒されたことはない。君はいつだって私にとって特別な存在だった。娘のように。君のような娘がいたら人生変わっていたかもしれない。そうだろ?」

「はい。」

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