Candy of Magic !! 【完】




その後いくつかの競技が過ぎて、大縄を皆で跳んだ後全員リレーになった。学年ごとに1クラス選抜して出すんだけど、なんとやっぱりというかそうなるのかというか、1年生は1組になった。他の学年はわからないけど、でも知ってる先輩は誰も出ていないようだった。ひとりが速くたって平均が遅かったら意味がない。

そのため、たくさんの先輩から見守られる形になった。

人数の多い学校に合わせたら二回走らないといけない人が三人出てしまったため、その三人を速い人から出そうとなったとき、もちろん選ばれたのはユラとソウル君とヤト君。


しかも、だ。



ラストは私、ユラ、ソウル君、アンカーのヤト君でリレーが終了する。なんでここにこんな私が配置されたのかはわからないけど、とにかく責任重大だ。お三方にバトンを最後に渡す重役を任されたのだ。

そう改めて自覚すると背筋が冷たくなってきた。足がすくんで上手く立てない。ちょうど順番に並び終えて皆が座り始めたから、崩れてしまった私に気づく人はいなかった。座るためにしゃがんだのではなく、堪えられなくてしゃがみこんでしまったのだ。


こんなに緊張するなんて今までになかった。入学式も情緒不安定ではあったけどそれは緊張というよりは不安に近かったし、ガラス細工を作るときも無心に近かったから緊張はしていなかった。

手や膝がガクガクと震えてきた。本当にこんな風になるのは初めててどうすればいいのかわからない。頼みの飴もズボンのポケットの中で溶けるといけないから今は持っていない。


……前には人がたくさんいるのに後ろには誰もいない。ユラはスタートだしソウル君もヤト君も私の近くには並んでいないから、緊張をほぐしてくれるような人が近くにいないのだ。

私にはあんまり友達がいないし、クラスの人とも必要最低限しか話さない。話す話題がないから長続きしなくてすぐに終わってしまうっているのも理由のひとつだ。ユラもソウル君もムードメーカーだし、ヤト君はいちいちちょっかいを出してくるから私はいつも聞き手に回るか反発するかしかしない。


心臓がドクドクと必要のない大量の血液を身体に送っているのを感じる。自分が今どこにいるのかも朦朧としてきた。

おかしい。なんでこんなに歪んでるんだろ。心も視界も。

前に並んで座っているクラスメートの背中がぐにゃりと歪み始めた。それはマーブル状に渦を巻き、青色と空の色と地面の色がグルグルと混ざる。

そして、すべてが混ざり合って黒く染まり始めた。何色もの絵の具を混ぜると黒くなるのは見たことがある。でも真っ黒ではなく、汚い黒。漆黒ではなく、嫌悪感を感じる黒。そして、渦のその先は闇。闇しかない。闇しか見えない……


そして、私はいつの間にか真っ黒な空間をただ落ちていた。上も下もわからないのに落ちているのだけはわかる。でも、私の身体はぼんやりと白く光っていた。手を伸ばせば視界に白い自分の腕が入る。

でも、私はひとりきり。私しかいない。

なんで?なんで私しかいないの?ユラは?ソウル君は?ヤト君は?先輩は?


困惑と脱力感しか私は感じなかった。そして、またか、と思いあたった。


疎外感。


私はいつもその言葉に縛られている。他とは違う。誰とも違う。誰も同じ境遇の人がいないひとりぼっちの人間。

魔法はこの世界で生きる上でのステータス。学力や運動能力はスキル。それを養うのが学校。

そんな学校ですでに疎外感を感じている私は、いったいなんだ。世界に出ればいずれは弾き飛ばされて、世界の果てで塵になってしまいそうだ。

そんなちっぽけな私。私はひとり。いつもひとり。何かが違う。皆と違う。似てるけど違う。


……何が、違う?



『剣と鈴、そして翼』



頭の中に響いてきた言葉。そして、包まれるような感触。いつの間にか閉じていた瞼をうっすらと開ければ、甦る透き通るような水色のなめらかな身体。

その巨体が、私の身体を包み込むようにふんわりと巻き付いていた。目の前には変わらない優しい瞳。



『あなたは選ばれし人の子。誰とも違う。違っていなければならない特別な存在』



ほらね、私は違うんだ。皆と違う特別な存在……でも、なにが特別?



『あなたは唯一無二の存在。あなたの代わりはいない。あなたには特別な力が宿っている』

「特、別な……」

『しかし、それを解放するときは今ではありません。だから、飛んで』

「飛ぶ……?」

『このまま落ちれば、禍(わざわい)が目覚めてしまう』

「禍……」

『あなたは禍と同時に開花する。あなたが目覚めれば禍は起き、禍が起こればあなたは目覚める。さあ、飛んで。あの方みたいに』



あの方……誰?それは誰なの?


龍は言葉の後、鎌首をもたげて私の後ろを見据えた。私もつられて振り返ると、そこには紫色の淡い光。でも、ぶれて見えて赤くなったり青くなったりして見える。

その光を目を細めて見ていた龍がいきなり私を見つめた。



『それを、掴んで』

「これを……?」

『それは、翼』



翼……だから翼って?それにあとの剣と鈴は……あ、剣と鈴って前見たやつ?あのつるが絡まってた……


あの風景を脳裏に浮かべていると、待ちかねたのか光自ら目の前に迫ってきた。眩しさのあまり手でその光を遮る。淡いと思っていた光は実は鋭くて強い光だったのだ。

でも、私の意思とは裏腹に両手が無意識にその光へと伸びしっかりと包み込む。私の身体も心もそれを欲しているみたいに感じるくらい、手のひらに触れた瞬間活力が沸いてきた。

龍は私の瞳に強い光が浮かぶその光景を見て、微笑んだようだった。



『それは、あなたのもの』

「私の、もの」

『あなたにしか使いこなせない。きっと今後役に立つときがくる。でも、そのときは絶望のとき』

「えっ……?」

『……さあ、行って。私の力も弱くなっている。残り、僅か』

「また、会える?」

『きっと……また……』



龍は囁くような小さな声になるとともに、闇に消えるようにふっと消えた。辺りを見渡して目を凝らすもあの姿はどこにもない。

私は恐る恐る手のひらを開いてみた。私の翼。私だけのもの。


でも、光の色は変わっていた。紫ではなく、明るく、神々しい……


黄金。


そう、金色のその先をいく黄金の輝き。その光はあっと思う間もなく私を覆い尽くした。あまりの眩しさにぎゅっと目を瞑る。

そして、ふわっと身体が背中から押される感覚がした。前髪がなびいておでこに風が当たる。耳の横や首にも風圧を感じる。

なんだか楽しくなって目を開くと、なんと私の身体が上昇しているではないか。そして、背中に感じる違和感。



「うわっ……!」



その正体に気づいて思わず声を上げた。それは黄金の一対の翼……私の背中に翼が生えている!

思わず微笑が浮かんだ。心も身体も浮上していた。飛んでる!飛べる!嘘みたい!


でも、そんな至福の時は一瞬で終わってしまった。誰かが私の腕を闇から引っ張り出した瞬間に……



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