悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~

5.力の対価






広がるのは
澄み渡った空。

生い茂る緑。

山の高みに立つ、
大きな神殿から望む海。



真っ白な衣を身に着けた
少女が、
笑みを浮かべながら
駆け寄ってくる。




『宝さま……。
 お待ち申し上げておりました。

 月は……
 お会いできて嬉しゅう存じます』





柔らかに微笑む黒髪の少女。





そして……
その傍には
……緋色の髪の少女……。




周囲に木霊す
鈴の音色がやけに耳に残る。







その景色は移り変わり……
山は噴火し、
大地は避けて……
黒い雨が降り注ぐ。






その全てを背負うように、
宝と呼ばれた存在は、
誰かを呼び寄せる。




そのものに……
自らを刀で貫かせる。



最後の一人となって存在した
その人は、
ゆっくりと目を閉じると、
やがては掌の中に、
世界を吸い込んでいった。












魘されるように、
声を出して、ベッドから飛び起きる。


見慣れない空間。


ベッドに座ったまま、
周囲を見渡す。





病院?






俺の居場所を推測しながら、
ゆっくりと部屋の中を見渡した。




徳力の関係者の前で倒れたとしたら、
俺は神前の附属病院にいるだろう。


だがこの場所は……違う。






ゆっくりと記憶を辿っていく。





そうだ……
俺は学校に居た。





アイツの隠れ家で時間を潰していたら、
ヤツが現れた。



朱鷺宮涼夜。


アイツか
この刻印を見て
何かを言ってた。



影宮の長とか、
力が封じられているとか……。



その直後から、
体が重くなって
いろんな情報が俺の中に
防御することも出来ず
流れ込むようになった。



あの幼かった時みたいに……。




校内で午後の授業を
告げるチャイムがなって、
俺は学校内を、
重い体を引きずるようにして
自宅マンションに帰宅した気がする。


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