悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~


「神威……」


聞きなれた声が降り注ぐと、
俺が被った布団など、
すぐに取り払われてアイツの手が俺に触れる。



「熱は下がったみたいだな」



熱?



「熱出てたのか?」

「まぁな。
 朝はそんなことなかっただろう。

 今朝の顔色は悪くなかった」

「ここに運んだの、
 安田医師?

 エレベーターの中で
 声を聞いた気がした」



俺の問いかけに、
飛翔は「あぁ」っと小さく頷いた。



ベッドサイドに
椅子を引き寄せて、
ゆっくりと腰掛ける。



「何時から?」

「何時からって熱?
 知るわけないだろ。

 ただ昼、朱鷺宮と接触してから
 体は重かったな。

 それに……ガキの頃みたいに、
 声が制御できなくなった」



ガキの頃から、
声と呼んでいる存在。 




それは耳を塞いでも、
聞きたくなくても、
ダイレクトに流れ込んでくる
感情・生命の鼓動。


その時間に紡がれてる言葉が
リアルタイムに
流れ込んでくる声の世界。



膨大な感情の波動に
何度も意識を失うことがあった。



その頃に似てるのかもしれない。





「声って、華月からきいた。

 ガキの頃のお前が感じてたらしいアレか?
 感情が雪崩れ込んで来て、
 情報量が処理できずにパンクするって言う」


パンクって、
飛翔……言い方考えろよ。


確かに回線が
パンクしてるようなもんだけどな。



「そうだよ」




呟いて、
わざと視線を逸らすように
窓から外を見つめる。




ふいに無音になった空間に
足音と共に聞きなれた消えが広がる。



「入るぞー、
 神威・飛翔」



そうやって病室に
ツカツカと入り込んできたのは、
俺をエレベーターで
介助してくれたその人。


飛翔の上司の一人、
安田嵩継(やすだ たかつぐ)。



「嵩継さん」


飛翔はそう呟いて、
俺のベッドサイドから離れた。




安田医師もまた、
アイツと同じように
俺の状態を診察して
ゆっくりと笑いかけた。




「おぉ、優秀優秀。
 飛翔、貸し一つな。

 神威連れて、
 マンション戻っていいぞ。

 後は自宅で大丈夫だろう。

 熱上がった時の為に、
 点滴だけは持って帰っとけ。

 コイツな、お前の学校から
 神威が消えたって連絡が入った途端に
 オロオロしてやがる。

 まっ、お前と塔矢の存在は
 コイツにとってはデカイってことだよ。

 お大事に」



いきなり現れて台風のように
去っていく、安田医師。




病室に残された飛翔は、
「着替えてくる」と小さく声を残して
病室から姿を消した。




アイツを待ち続ける間、
再び眠りに落ちたらしい俺は、
結局、朝までこの場所で眠り続けた。





ベッドの中、体を起こすと
飛翔が病室の一角にある
ソファーで少し眠ってるみたいだった。



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