悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~



「だから、
 バカだってんだよ」




アイツを見ながら毒づく俺。



私服のまま、
ソファーに体を預けて
眠るアイツの姿が
疲れているように見えて。





暫くアイツを起こすこともなく、
ベッドの中で、じっとしていた。





更に少し時間が過ぎた頃、
病室の向こう側で
聞きなれた声がまた聞こえた。 





ノック音の後姿を見せたのは、
後見役の華月。

そして華月の後ろに控えるのは万葉。




その二人の声に反応して、
飛翔はすぐに起きてしまった。





「ご当主」




そう言いながら
病室に飛び込んでくる二人。




「飛翔、ご当主は?」





そう言いながら近づいてくる飛翔は、
すでに仕事モードに
切り替わっているらしく、
俺に触れてくる手は、
医師としての手。



「大丈夫だろう」




飛翔の言葉に、
華月も万葉も安堵したように
ソファーへと座り込んだ。





「何してんだ。

 総本家には連絡しておいただろう。
 神威が見つかった時点で」

「えぇ。

 連絡は頂きましたわ。
 見つかりましたっと。

 ただ飛翔、
 貴方の電話は短すぎるんですわ。

 『神威は俺の職場に居る。
  心配するな』

 その電話を聞いて、
 呑気に眠れる人が何処に居ますの?」



飛翔に食って
掛かる声を荒げる華月は珍しい。



「華月さま、飛翔さま。
 
 こちらは病室ですし、
 ご当主の御前ですから」


静かに嗜めるように
割り込む万葉。



「華月さま、
 ご当主さまもお元気そうですし、
 少し仮眠されて、
 午後からの宮家との話し合いに……」


万葉が小さく華月に呟く。




またか……。


春頃から何度も聞く、
宮の文字。





「華月、何度も聞く『宮の件』とは
 何かあるのか?

 俺は聞かされていないが」



探りを入れるように、
わざと話を持ちかけてみる。





「徳力は古より、
 宮様方とも縁深き家柄。

 その関係で、
 何度か話し合いの場を
 持たせて頂いております」




華月は顔色一つ変えず、
穏やかな口調で切り返す。




「俺の同時期、
 朱鷺宮涼夜と言う奴が
 学院に転校してきた。

 
 俺を見て、
 影宮の長と言っていたが……」




その名前と言葉を発した途端に、
華月よりも万葉の顔色が変わった。


華月もまた、
顔色を真っ青にして
今にも倒れそうな様子で、
異変に気が付いた
飛翔はすぐに体を支える。

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