悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

- 三年後 -



和鬼が目覚めることのないまま、
三年の月日が流れた。


和鬼が眠り続ける間も、由岐和喜として生き続けるアイツは
YUKIとしてのベストアルバムを発売。


同じ事務所の仲間たちが、YUKIの曲をカバーして世の中を賑わせながら
時間は流れ続けた。




オレ自身が、少しずつ柊の修行の成果も感じられるようになり
ある程度の結界や、術が使えるようになった頃、
寮へと一本の電話が入った。





「お電話かわりました。徳力です」

「ご当主、お喜びくださいませ。
 今、トパジオスレコードの須王さんから、こちらにお電話がはいりました。
 由岐和喜さんの意識が戻ったと」




和鬼がようやく目覚めたことを告げる連絡だった。






次の休みにあわせて、和鬼に会うために病室を訪ねる。



そこには、あの金色の髪に朱金の瞳を宿した桜鬼が
ベッドから体を起こして、笑顔を見せていた。





ノックをしていつものように病室に入ると、
依子がオレたちを招き入れる。




「何度も足をお運びくださって有難うごさいます。
 YUKI、こちらは貴方のスポンサーをしてくださってる徳力さま」

「初めまして。
 お世話になっています由岐和喜です」


和鬼は鬼の世界のことなど忘れたように、
俺と出逢ったことすら、忘れてしまったように挨拶をした。



「初めまして、徳力神威です」



名前を名乗って、握手を交わす。



その手にふれた途端に流れ込んでくるのは、
愛しい人、咲を思い続けるアイツの心。



「桜塚神社の桜は見事ですね。
 いつか、PVの撮影などに使わせて頂いてはいかがですか?」


「えぇ、そうですわね。
 あの場所は、YUKIにとっても縁が深い場所と聞いています。
 桜の季節に、そう言ったことが出来るといいですわね」




依子はそう言って笑いかけた。












更に年月が流れたある夜。



オレは久しぶりに、夢を渡る。

その夢のなかで、アイツは長い旅を終えて
アイツの大切な存在の元に帰りついたことを知った。




鬼の国主としての譲原咲。
咲の隣で、桜鬼として国主を支え続けるアイツ。





その時間が、オレにとっては
とても愛おしい存在のように感じられた。




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