捨て猫にパン
「あたし…帰ります…」


「帰せないよ。そんなに傷ついた真琴を新しく傷つけるなんてできない」


「帰りたいの…。陣に…帰りたい…」


「それが真琴の答え?」


「ハイ…」


「…わかった。送ってく」


最後になる倉持さんの助手席で、あたしは手の甲を強く噛んだ。


この痛みにまかせて何も感じたくはなかったから。


突き刺さるように届いた倉持さんの言葉を、これ以上膨らませたくなくて。


無言のままアパートの前で、あたしは苦しい一言を絞り出す。
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