捨て猫にパン
「さよなら………倉持さん…」


「まだ終わりじゃないよ。君の心が涙じゃなく、もっと別なものに満たされるまで。だからサヨナラは言わない。きっとまた会えるって信じてる。いつまでも待ってるから、だから真琴はオレの影を見失わずにいて」


───パタン


ドアを閉めて遠ざかる車のテールランプに涙が滲んだ。


止まらない涙に、あたしは下唇を強く噛む。


今、陣にたまらなく会いたい。


会って忘れなきゃいけない。


倉持さんの強い眼差し。


倉持さんの重い言葉。


だからあたしは家に戻らず、通りでタクシーをつかまえて陣へ向かった。
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