捨て猫にパン
陣が出勤の支度をしてる間、あたしも服を着てコーヒーをいれて。


いってらっしゃいのキスの後、1人でポツンと残された部屋。


あたしの肌には陣は残ってなくて。


巡るのは昨夜の倉持さんの言葉ばかりで。


それを消そうと、あたしは陣の部屋を掃除したり、夕食の買い出しや2人で食べるためのちょっと凝った食事を作ったりした。


本店異動のお祝いに、って。


カチャトーラ風のパスタ、ガーリックトースト、シーザーサラダに、餃子の皮を使った簡単一口ピザ。


ビールのグラスも冷やして、準備は万端。


こんな風に。


これから先は陣とご飯を食べて、同じベッドで眠って、朝になったら“おはよう”って。


2人で作っていくんだよ、ね…?


幻の幸せなんかじゃない。


あたしが掴みたいのは。


陣との地に足をつけた確かな幸せ。
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