捨て猫にパン
スマホを見つめるだけの、ちょっとの沈黙。


助けてくれた人が、こんなに息も詰まるくらいのイケメンさんだったなんて。


今更ながら恥ずかしくってしょうがない。


痴漢で泣いて、タクシー代押しつけて、藪から棒に家にまで上げてしまって。


でも…。


ちゃんとお礼を言わなきゃ、って思うから。


手元のスマホをテーブルに置いて、倉持さんに向き直った。


「先程は、なんてゆーか…。助けていただき、ありがとうございましたっ!!」


「いいよ、別に。君、名前は?」


倉持さんは背広のポケットから名刺を取り出して、あたしに差し出した。


名刺には
“hauoliレンタカー  営業部部長 兼 支店総括部長  倉持 要”


「オレ、倉持 要、32」


受け取った名刺を丁寧にテーブルに置き、あたしも名刺を渡した。


「和島 真琴、です…。旅行代理店に勤務してる26歳です…」


「ま・こ・と?」


「あ…。男の子みたいな名前で…」


「いい響きだとオレは思うけど?」


「…ありがとうございます」


「さて、と。やっと名前もらったし、説教でも?」


「説教…?」


「まず悪いんだけど、灰皿欲しいな」


「あ、ハイッ」


普段使うことのない、かなり前の元彼用の灰皿を捜索、倉持さんの前に差し出した。
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