捨て猫にパン
「ケータイ、借りていい?」


「あ、ハイッ。どうぞ」


テーブルの上の2つのスマホを操作した倉持さんは、


「ハイ、番号交換」


切れ長の目を緩ませて、あたしの手にケータイを置いた。


その目、反則ですっ!近いですっ!


思わず顔をそむけたら、2本目のタバコに火をつけた倉持さんが、


「ヤ?」


って、聞くから。


あたしは上ずってしまいそうな言葉を飲んで、ただ首を横に振った。


「明日、仕事?」


「ハイ、そうです」


「電車、乗れそ?」


って…聞かれると。


満員電車の人混みにいるかもしれない痴漢が怖い。


でも、出勤にタクシーを使えるほどたくさん給料を貰ってるわけでもなし、歩きやチャリなんて無理だし。


…困った。
< 16 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop