捨て猫にパン
───カチャ


昨夜のあんまんがすっかり胃の中におさまったちょうど、陣が帰ってきたから。


「お゛がえ゛り゛な゛ざい゛、陣」


そう言って笑ったのに。


陣はフッ、と顔をそむけた。


「…陣…?」


「…ヤベェ」


「?」


「“おかえり”とかさ、マジヤバイんだけど」


「ご、ごめ゛ん゛な゛ざいっ。ヤだったら……取り゛消じま゛ず…」


「…じゃなくて。マジでガチで、なんつーか…嬉しい…」


俺、かっこ悪いよな、って。


消え入りそうな声で真っ赤な顔を隠そうとするから、ちょっとからかってみたくもなるけど。


…この声じゃ、ね。


「ゴホンッ!えーっと、そうだ、こ、これ。のど飴とケータイ返却」


「あ゛り゛がどう゛ござい゛ま゛ず」


「あと、さ。タメでいい」


「…?」


「2人の時、タメ口でいい。なんかいっつも仕事モードっつーか。敬語禁止な」


「ん…」


「飴、食わねぇの?」


手渡されたままの飴。


あの時のりんごあめは、どんな味だったんだろう…って。


ちょっぴりかすめたけど、思い切って封を切って、口の中へ放り込んだ。


ミントの爽快感が口いっぱいに広がった。


コロコロ口の中で転がしてなんとか喉の回復を願ってるのに、陣はそれを見る度笑う。


「ハムスターみたいでかわいい」って。


女子を褒める言葉にしては、ずいぶんだ。
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