捨て猫にパン
「真琴、コレ氷枕、首に。今、タオル濡らしてくるから」


陣は手早くあたしを介抱してくれる。


おでこと脇の下に濡れタオルをしてくれて、うちわでやわらかく風を送ってくれて。


「ゴメンネ、陣…」


「いいって。外、暑かったもんな」


「うん…。あのね、陣…」


「ん?何、真琴?」


「あのね、どうしても追いつけなかったの。陣が先を歩くんだけどね、あたしは…あたしの歩幅とは…っ…っ…合わないの…」


「真琴…」


「早く追いつかなきゃ、って…っ…っ…焦ってばかりで…陣の背中はどんどん遠くなるよ…」


「そっか。俺が悪かったよ。これからはさ、真琴のペースに合わせるから、さ。真琴に無理はさせないからさ。泣くなよ、真琴…」


「…っ…っ…。もう…歩けないよ…」


「そんな事言ってくれるな。今は何も考えないで休め。なっ?」


“愛してるよ、真琴”って。


かすかな意識の中で聞こえた声は、あたしの心には届かなかった───。
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