先生がくれた「明日」

それから、前よりもなんとなく窓を気にするようになった。

先生と、その窓を通じて繋がっているようで。


ある休みの日。

歩は野球をしに外へ行っていて、私は一人だった。

家の中で、掃除をしたりしていたのだけれど。


窓の向こうに何気なく目をやると、先生が部屋の中を歩き回っているのが見えた。

私は思わず口元を緩めて、窓に寄る。

窓にぺたっと張り付いて、先生をじっと見つめる。


すると、先生がふと動きを止めて、窓を開けた。

私も窓を開け放つ。


呆れたような表情で、手に持った箒をかざす先生。

私をはたく身振りをする。

なんだか可愛らしくて、笑ってしまう。


大声を出せば、先生にやっと聞こえるくらいの距離。

でも、そんなことをしたらまずいのは分かってるから。

代わりに大きく手を振った。

先生は、肩を揺らして笑う。


両手でピストルを作って、バーン、と撃つと。

呆れつつも、倒れる真似をしてくれる先生。


好きです。

そんな先生が、とても好き。

好きな気持ちが、心の奥からあふれ出してくる。

こんなに、誰かを愛しく思ったのは、正真正銘の初めてだよ、先生。


いつだって、その窓を通して先生に会える気がした。

この窓の向こうで、あなたが暮らしているということ。

その、当たり前のようで当たり前じゃない日常が、愛おしい。


先生と、私だけの時間が、確かにそこにあったんだ。

そうだよね、先生―――
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