先生がくれた「明日」

クリスマス

そして、だんだん冬が近付いてきて。



「莉子姉、ただいま!寒い!」


「おかえり。寒いね、今日は。」


「家の中も外と同じだよー。」


「毛布かけてな。」


「はーい。」



暖房のない我が家は、冬を耐え忍ぶのがとても大変だ。

さすがの歩も不平を言うくらい、最近は寒い。

私も、水仕事をしていたら、指があかぎれだらけになってしまった。

何となく恥ずかしくて、学校ではいつも制服の袖を伸ばして、指先を隠している。



「ピンポーン」


「みっちゃんかな!」



歩が嬉しそうに、毛布の下から飛び出す。



「ちょっと待って、歩。」



歩の父のことがあってから、私は用心してドアを開けるようにしている。

ドアチェーンもかけっぱなしだ。



「はーい。」


「俺だよ。」


「先生!」



思わず笑顔になって、ドアを開ける。

すると、先生は何やら大きなものを抱えたまま部屋に入ってきた。



「お前らが寒がってるだろうなと思って。これ使え。」


「これ、石油ストーブ?」


「ああ。石油は俺が買ってきてやるから心配するな。」


「いいの?」


「いいよ。どうせ、俺の実家で使われなくなって放置されてたやつだし。あ、だから最初はちょっと嫌な臭いがするかもしれないけど……。」



さっそく火を点けてみる。

ああ、なるほど。

使われていなかった間の埃が燃えて、部屋中に臭いが立ちこめる。

だけど、なんだかほっとする香りに思えた。



「あったかい!」



一番最初に、歩が手をかざした。

そして、赤く染まった手のひらを嬉しそうに掲げている。



「あったかいな。ほら、莉子もおいで。」



小さな石油ストーブの前で、三人が身を寄せ合うようにして暖まった。

指先からじんわりと温かくなって、心まであったかくなる。



「それ……、痛そうだな。」



先生が急に私の指先に目を向けているのに気付いて、私は咄嗟に袖で隠した。



「なんだ、隠すことないだろ。」



ちょっと笑って、先生は私の手を取る。



「皿洗いとかしてるからだろ?」


「大丈夫だよ。こんなのいつものことだから。」


「見るからに痛そうだけどな。」


「大丈夫!」



本当は痛いけれど、だけど仕方のないことだから。

そうやって強がる私を、先生は困ったような目で見て、そっと手を放した。



「クリスマスプレゼントはハンドクリームだな。」



そうつぶやいて、優しく笑いながら―――
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