先生がくれた「明日」
段々日が傾いてきて、先生と一緒に屋台を目指した。

小さな神社に続く道の両脇に、所狭しと屋台が並んでいる。

こんなところを歩くのは、私の憧れだった。

私には、そんな幸せな記憶は何もないから。



―――ねえ、先生。



これって偶然なの?


今日、お祭りがあることも。

民宿のお姉さんと知り合いなことも。

先生が、地図を持っていないことも。


初めて来た土地には、思えない―――

ううん、考えてみれば先生は、自分の知らない土地に連れていくとは、言っていなかったね。



「よし、何でも欲しいものを言え!買ってやるから。」


「え?いいよそんなの。」


「遠慮するな!いいか?ここで夕飯見付けないと、後で後悔するからな!」


「後で?」


「この後、花火大会なの。河川敷で。見るだろ?」


「うんっ!!」


「よし、じゃあ何か調達しないと。」



花火大会もあるだなんて、ますます偶然とは思えない。

だけど、もし私の予感が当たっていたら、嬉しい―――



「なに、あれ。」


「あ?……チョコバナナか?お前、チョコバナナ食べたことないの?」


「うん。」


「あんなのは、ただのバナナだけど食べるか?」


「いいの?」


「遠慮するなって言ってるだろ!」



味を選ぶと、カラフルなチョコバナナが私の手に差し出される。

確かに、ただのバナナだけど。

でも、私にとっては特別に思えるんだ。



「俺はもっとごはんらしいものがいいな。おっ、たこ焼きがある!」



先生は、やけにたくさん入っているたこ焼きを買った。



「そんなに食べるの?」


「お前も食べるだろ。」


「私、これがあるのに。」


「ばか。そんなもんおやつだろ。」



私のチョコバナナを指差して笑う先生。

その横顔が、提灯の明かりで照らされて、ドキッとするほど切ない。


今日が、終わらなければいいのに。

このまま、ずっとこのままで。

先生と二人、異世界に紛れ込んで、そのまま帰れなくなればいい。



「射的、やるか?」


「射的?」



先生は、屋台に近づいて鉄砲を見立てたおもちゃを手に取った。

私にも渡してくる。



「ほら、俺はあれを狙う!」



先生こそ、子どもみたいだよ。

先生は、一番難しそうな的を狙って、結局最後まで外してしまった。



「くそー。莉子、お前もやってみろ!」


「私、こんなの初めてだもん、無理だよ。」


「いいから。」



みんなが見ている中で、球を打つ。

なんだかちょっと、照れてしまって。

最初の一球は大きく外した。



「がんばれ!莉子!」



先生に応援されて、もう一度構える。

球を打った直後、パシ、という音がして的が倒れた。



「おおお!!!よくやった莉子!」



先生が大げさに喜んで、周りの人も拍手してくれた。

なんだか、心がくすぐったい。



「お姉ちゃん、これが当たったよ。」


「ありがとう!」



屋台の店主さんから受け取ったのは、手持ち花火のセットだった。

これも、ずっと私の憧れだったんだ。

子どもの頃、夏になるとお店の片隅にある花火セット。

それが欲しくても、ねだることなんてできなかった―――



「いいもの取ったな!花火見てから、手持ち花火しよう!」


「花火三昧だね!」


「そうだな!」



神様がくれた幸運みたいな、花火セットを大事に抱えて。

私は、いつの間にか先生と手を繋ぎながら、ゆっくりと歩いた。
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