先生がくれた「明日」
先生と、近くのお店をいくつか見て回った。

笑っちゃうくらいいろんなお店がある。

干物の専門店があると思えば、隣には八百屋さん。

その隣には、雑貨屋さん。


海辺の街の雰囲気って、本当に素敵だと思った。



「あ、これ、」


「ん?」


「可愛い。」


「何だそれ。」



小さな貝殻の付いたネックレス。

すごく可愛らしい。



「貸してみろ。」


「え?」


「いいから貸せ!」



先生は華奢なネックレスを強引に掴んで、そのままレジに持って行ってしまう。

もしかして―――



「ほら、ちょっと立ち止まって。」



店を出ると、先生は私の背後に回って、ネックレスを首に掛けてくれた。

しばらく、金具を留めるのに苦労していて。

やっと留まると、最後に私の髪を持ち上げて、ネックレスに通した。

それだけなのに、真っ赤になってしまった耳が熱い。



「似合うよ。」


「先生、」



見下ろすと、私の胸に、可愛らしい貝殻が揺れていた。



「ありがとっ!」



先生に体当たりするみたいに抱きつく。

歩によくやられるみたいに。



「ばか。」



先生は、私の頭を優しく撫でてくれた。

いつもなら、あんまりしないことだった。


だけど今、ここには。

私と先生を知っている人は、きっと誰もいない。

誰も、私と先生のことを、咎めたりしない。


その自由さが、私たちを解き放っていた。

ほんの束の間の、人生におけるたった一瞬を。

先生とふたりだけで過ごした。

美しすぎる思い出を、私の胸に刻み込むように―――
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