過ちの契る向こうに咲く花は
こういう話がしたかったわけじゃない、たぶん。自分のなかの、もやっとした部分の折り合いをつけるには、こういうアプローチじゃない気がする。
なにか言ってやりたい気持ちももちろんある。だけどそんな台詞も思い浮かんでこない。どうしたらいいのかわからない、というのが現状だ。
「すまなかった」
やはり今日はこっちに来ないほうが良かったか、と思い始めたとき伊堂寺さんから意外なことばが聞こえてきた。
「なにに、対してですか」
そのことばが聞きたかったような気もするのに、唐突でうまく対応できない。
「いろいろだな」
「いろいろ、ってそんないい加減な」
「それをひとつずつ言わせてもらいたいから、中に入ってくれないか」
少々、強引。物言いは。
でも今までに比べたらおとなしくって、控え目に感じられてしまって新鮮だった。
「やっぱり帰ります、って言ったら」
「聞く気になるまで待つさ」
「待つんですか、そこは多少強引にでもきたほうが誠意がありそうな気がしますが」
「耳を閉じている相手になにを言おうが、届きはしない」
今までとは逆だ。無理矢理言い聞かせる、というか有無を言わせず事を進めるのが得意で心情なのだと思っていた。
それがここにきて。
「けっこう、弱腰ですね」
「なんとでも言え」
堂々とした態度は変わらない。けれど違った潔さがある。
じっ、とその顔を見つめても視線をそらしはしなかった。美しい顔のままで私を見ている。
なんだかんだで、根負けするのは私なんだろうな。
そう思えてため息をつく。
「コーヒーより、紅茶の気分です」
私のことばに伊堂寺さんは「了解した」とだけ答え、先に廊下から消えていった。
案外しっかり紅茶を淹れれるんだな、とティーカップを手にして感心してしまった。そういうスキルはなさそうというか、食にこだわりがないらしいので、それなりなものが出てくると思っていた。失礼かもだけど。
香りもいいし、渋くなくて砂糖がなくてもおいしい。気づけば無言のまま半分ぐらい飲んでいた。
「母がうるさいんだ、紅茶には」
私の様子を見てか、伊堂寺さんがさらりと言う。しかし母親に淹れ方なりを指導されている伊堂寺さんを想像してしまって、笑いそうになるのをぐっと堪えた。
なにか言ってやりたい気持ちももちろんある。だけどそんな台詞も思い浮かんでこない。どうしたらいいのかわからない、というのが現状だ。
「すまなかった」
やはり今日はこっちに来ないほうが良かったか、と思い始めたとき伊堂寺さんから意外なことばが聞こえてきた。
「なにに、対してですか」
そのことばが聞きたかったような気もするのに、唐突でうまく対応できない。
「いろいろだな」
「いろいろ、ってそんないい加減な」
「それをひとつずつ言わせてもらいたいから、中に入ってくれないか」
少々、強引。物言いは。
でも今までに比べたらおとなしくって、控え目に感じられてしまって新鮮だった。
「やっぱり帰ります、って言ったら」
「聞く気になるまで待つさ」
「待つんですか、そこは多少強引にでもきたほうが誠意がありそうな気がしますが」
「耳を閉じている相手になにを言おうが、届きはしない」
今までとは逆だ。無理矢理言い聞かせる、というか有無を言わせず事を進めるのが得意で心情なのだと思っていた。
それがここにきて。
「けっこう、弱腰ですね」
「なんとでも言え」
堂々とした態度は変わらない。けれど違った潔さがある。
じっ、とその顔を見つめても視線をそらしはしなかった。美しい顔のままで私を見ている。
なんだかんだで、根負けするのは私なんだろうな。
そう思えてため息をつく。
「コーヒーより、紅茶の気分です」
私のことばに伊堂寺さんは「了解した」とだけ答え、先に廊下から消えていった。
案外しっかり紅茶を淹れれるんだな、とティーカップを手にして感心してしまった。そういうスキルはなさそうというか、食にこだわりがないらしいので、それなりなものが出てくると思っていた。失礼かもだけど。
香りもいいし、渋くなくて砂糖がなくてもおいしい。気づけば無言のまま半分ぐらい飲んでいた。
「母がうるさいんだ、紅茶には」
私の様子を見てか、伊堂寺さんがさらりと言う。しかし母親に淹れ方なりを指導されている伊堂寺さんを想像してしまって、笑いそうになるのをぐっと堪えた。