過ちの契る向こうに咲く花は
「父がすまなかった」
 そんな私に気づいてか否か、伊堂寺さんは話し出した。
「話をした後からすぐにでも会いたい、という雰囲気を出されたんだがさすがに断り続けていた。野崎自身が両親とうちのことを知っているか、どう思っているのかもわからなかったし、かと言って全てを打ち明けて会わせるのもさすがに気が引けた。まあ勝手なことはしないだろうと思っていたんだが、甘かったな。一度未遂があったのだからもうすこし気を配るべきだった」
「未遂、なんかありましたか」
「歓迎会の帰り、家に寄ったら車があっただろう」
 そう言われて思い出す。たしかにあのとき見覚えのないひとが私の部屋の前にいて、妙な車が近くに止まっていた。まさか伊堂寺さんのお父さんだったとは。

「お父さまも、なんというか、随分アグレッシブというか」
 私が父のことを知らない、ということは想像していたんだろうか。行動が謎と言えば謎だけど、いかんせん自分とは世界が違うひとなので、私の常識とは範疇が違うのかもしれない。
「強引が服を着て歩いているような男だ。だからいきなり婚約だの同居しろだの言う」
 たしかに、とは心の中だけで頷いておいた。

「俺と父が勝手に過去を、ひっかきまわしたのも悪かった」
 紅茶をまたひとくちすすって、気持ちを落ち着かせる。
 さっき鳴海さんに聞いたけれど、伊堂寺さんは調査結果はひとつも漏らさなかったらしい。冗談で鳴海さんがちょっとぐらいいいじゃん、と言っても「勝手に調べたものを勝手に吹聴する下衆な趣味はない」と一刀両断されたという。
「いや勝手に調べた時点でアウトですけど」と思わず口にしたら「だよねぇ」と鳴海さんも笑っていた。「でも調べますよいいですか、って聞いて許可が出るとも思えないよ」と言われたのでそれもそうだと納得してしまった。いや気持ちは納得してないけれど。

「自分のミスなのに、面倒にならないようにと優位に立とうとしたこと自体、理解はできないだろう」
 理解できないことはない。ただ大体ダメな奴がそういうことをするイメージがある。つまり伊堂寺さんイコールダメな男、という図式になるのだが、その自覚はあるのだろうか。
「ひとつ聞きたいんですけれど」
 まあダメな男かどうかは別として、もうひとつ気になることがある。
「なんだ」と発言の許可をもらったので、遠慮なくぶつけてみることにする。
 
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