過ちの契る向こうに咲く花は
「わかった」
 伊堂寺さんは案外素直に条件を飲んでくれた。それもまた若干拍子抜けする。ある意味自信満々、ということなのだろうか。
「部屋は残したままにしておく。荷物は好きにしろ。職場では今までどおりだ」
 食い下がりもしないところはちょっとさみしいような気がしなくもないけれど。

 とんとん拍子で進んでいくのをちょっと間抜けな顔で見ていたのだろう。またしても伊堂寺さんにため息をつかれる。
「お前、気づいてないんだな」
 なににですか、と言いそうになって堪えた。どうせまたため息が聞こえるだけだろう。

「紅茶、飲むか」
「え、あ、はい。美味しいので、ぜひ」
「ここに住めば毎日飲めるぞ」
「……なんていうか早いですね」
「なにがだ」
「いや、苦手だとお聞きしたので」
 私のことばに伊堂寺さんがひさしぶりに笑った。鼻で。

「一週間で終わらせるさ」
 まったく、その自信は一体どこから出てくるのだろう。
 うつくしい顔に騙されることだけはないようにしよう。そう心に決めて思い出す、「ひとは見た目が九割」のことば。残りの一割を見せてくれたら、結構早いかもしれない。
 と思った私は、たぶん既にもうスタートしてるんだろう。


【終】

 
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