過ちの契る向こうに咲く花は
「努力するのを、やめたくなるでしょうね、きっと」
 野菜もフライパンに全て入れてしまう。残っていた水分が弾け飛ぶ。
「だがお前はそれを選ばないだろう」
 玉ねぎとキャベツ、もやしが嵩を失っていく。
「俺も、選ばなかった。まあどちらかと言うと選べなかっただけだが」
 麺を投入するタイミングを、見失いそうだった。

「努力しても見てもらえないのならば、見てもらえるようにせねばと考えた。子どもながらに、だがな。そのほうが楽だったからだ。時折他人はやめるのが楽だと言うが、そんなことはない。すべてを放棄するほうがずっとつらい。今までの自分すら否定することになるかもしれんからな」
 だからまあ、復讐ってのはあながち外れでもない。
 伊堂寺さんはそうつけ加えた。

 すべてを放棄するほうがずっとつらい。
 そのことばが頭に残る。
 だから、私は一部を放棄したのだろうか。秤にかけて、軽かったほうを。 

「俺も誠一郎から話を聞いた。正確には怒られた、に近いかもしれないが」
 なんとか麺を入れて、ほぐして味をつける。
「迷惑をかけてるのだから、もっと気遣えと」
 残りものの野菜で作った、塩焼きそば。火を止めると、湯気が立ち昇る。

「野崎すみれに、なにを言われた」
 伊堂寺さんの声が、換気扇の音に消されることなく真っ直ぐ向かってきた。
 私の視線は、フライパンの中身に落ちたまま。

 鳴海さんにとって、伊堂寺さんはとても大切な存在なのだろうなと思っていたけれど。どうやら逆もそうらしいな、と場違いなぐらいのんきに頭の片隅で考えていた。
 あんなに頑な伊堂寺さんを操るなんて。
 従兄弟とはいえ、そうやって絆をしっかり結べるのはうらやましい。

 顔を上げると、伊堂寺さんがこちらを見ていた。その表情から、感情は読みとれない。心配しているとか、怒っているとか、そんなものが彼の心にあるのだろうか。

 とりあえず、私たちは期間限定の存在なのだ。
 そう思うと、すこし気が楽になった。


「焼きそば、作り過ぎました。良かったら食べませんか」
 自分のぶんだけで良かったのに、なぜか麺を二人前入れていた。
「そうだな。見ていたら腹が減った」
 その返事に頷き、私は二枚、そろいの皿を出した。
 
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