過ちの契る向こうに咲く花は
「伊堂寺さんには、わかりません。駒の気持ちなんて」
 それでも出たことばに、伊堂寺さんが顔を背ける。
 聞きたくないのではなく、聞く気がないみたいに。
「わかってもらえないから伝える努力をしない、か」
 その代わりボリュームを下げて、そんなことばが聞こえてきた。

 伝える努力。その単語が耳に残る。

 仕事に戻る。それだけ言って伊堂寺さんは私を見ることなく会議室を出ていってしまった。
 私は疲労感に近いものを感じながら、その背中を見ずに外の景色を見つめていた。
 馬鹿みたいに晴れた天気だった。
 
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