過ちの契る向こうに咲く花は
 どうしてとか、何をきっかけにとか、そういう原因を追いかけるのはやめた。
 考えればきりがない。それにどうしてもこじつけて理由を作ろうとしてしまう。同時にそれは他人任せのものになる。
 だったら思い立ったが吉日ぐらいの気軽さでいい。他人に説明できなくてもいい。
 それがこの数日で出した答えだった。

 その間、伊堂寺さんとはあんまり会話をしなかった。むこうが終始苛々してるような気配をさせていたせいもある。食事だけは一緒にとったけど、そのほかは互いに自室にこもっていた。
 ほんとうは、あのとき言ったことを謝りたかったものの、そのきっかけは掴めず仕舞い。
 この雰囲気のまま残り半月ぐらいも過ごすのかと思うと気は重たかったけれど、それもしかたがないのかなと諦めもつく。
 私が言った通り、伊堂寺さんにとっては自分の親に対して都合した婚約者に過ぎないのだから。
 そこは、間違えていないと思う。そうであるなら、形だけで別に構わない。

 そして今日、土曜日。
 朝早くから活動を開始し、朝食を用意してすぐに伊堂寺さんのマンションを出た。
 目的、というより今日の行動予定はしっかり決めている。

 ひとつ、眼鏡を外すこと。
 これはただ外すだけだから、マンションを出る前に捨ててきた。これ以上頼らないように。
 長い間使った度なしの眼鏡がゴミ箱に入っている姿はちょっと寂しかったけれど、気持ちを区切るうえでは良かったと思う。

 ひとつ、髪を切ること。
 黒に染めたのを戻すのは難しいだろう。だからそれは諦めて自然に任せるけれど、とりあえず結ばなくて良い長さまで切ってしまう。どうせなら、思い切り。
 久しぶりにうなじに風が当たる。

 ひとつ、新しいスーツを買うこと。
 服を一切合財買い変えるにはお金も時間も労力もかかり過ぎてしまう。だからまずは仕事着のスーツから。
 といってもいきなりガラッと変えるのは躊躇してしまう。ツイードとかのコンサバ系もちょっと遠慮したい。ラフ過ぎるのも、職場には合わない。

 散々迷って、初めてスカートのセットアップを購入してみた。脚を出す、ということが久しぶり過ぎて試着の段階でそわそわしてしまったぐらいだ。
 それでもこれぐらい思い切ろうと、似合わないことはないだろうと濃い目のグレーにピンストライプが入った生地を選ぶ。
 
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