遅咲きプリンセス。
とっさに口をついて出た「でゃよ」に時間差でツボにハマったらしい菅野君が、必死に笑い声を抑えようと口に手を当てて耐えている姿を申し訳なく思いつつ、ほのかに期待する私だ。
しかし、なんで「でゃよ」だったんだろう。
ほかの言い間違いだったらよかったというわけではないし、むしろ噛みたくなかったのだけれど、なんだか「でゃよ」はない気がする……。
いち、社会人として。
アラサーとして。
「どう? 試しに買ってく? マスカラ。買った商品限定だけど、向こうに個室のメイクルームもあるし、同僚のよしみとして」
「あ、うん!ぜひ!」
すると菅野君は、若干まだ笑っているものの、いつもの調子でちょっとしたセールストークを繰り出し、私はすぐに、そう返事をする。
“でゃよ”地獄から抜け出せるなら、この際、なんでもいい気分で、菅野君に「こっち」とマスカラの陳列棚まで案内してもらっている間、助かったー……と、ほっと胸をなで下ろす。
「これ」
「わぁ、これかぁ。パッケージもキャッチもいいね。じゃあ、さっそくお会計してくる」
「悪いな、買わせて」
「ううん、ちょうど欲しいところだったし」