誘う、誘ってる【短編】
3軒ほど回って、空はオレンジ色になる。
社用車に乗り込んで私は腕時計を見やった。短針は5を指している。
「まだ仕事、残ってる?」
運転席の鹿島さんがこちらを見ていた。私の瞳の奥をのぞき込むように。
「はい」
「俺も」
デートのお誘い……なワケないか、と心の中で自嘲した。
「じゃあ腹ごしらえしてから戻らないか? 近くに美味い店があるんだけど」
「はい!」
元気良く返事をして鹿島さんに少し笑われた。でもいい。ほんの少し、鹿島さんを独り占めできる。僅かなプライベートな瞬間。