ライギョ
「早かったね。」


「ああ、タクシーで来たから。」


返しながら取り敢えず、鞄をテーブル脇に置く。


「そっか。ごめん…呼び出したりして。」


俺が小夜子の前の席に座るなり、謝ってきた。


「いや、うん……まぁ、驚いたけど……なんかあった?その……山中と……」


この場で山中の名前を出すのがとてつもなく、今の状況が良くない事を表している気がする。


少しの沈黙を破るように先ほどの女将さんが飲み物を聞きに来た。


ビールとさすがに腹が減ってる訳じゃないけど、いくつかのつまみを頼んだ。


どうやらお品書きを見る限り、この店は新潟県産の物を使っているらしい。


メニューの中にもかんずりや醤油の実と言った郷土料理的なのがいくつもあった。


「だからトキなのかぁ……。」


「えっ、この店の名前の事?」


「うん、トキって佐渡ヶ島のトキの事なんだろ?」


小夜子が返す前にビールと頼んだものを運んできた女将さんが答える。


「そうなんですよ。うちの人、新潟出身なんですよ。こういうの大阪じゃ珍しいでしょ。日本酒も色々と揃えてるから良かったら試してくださいね。小夜ちゃん詳しいから。」


それだけ言うと女将さんは階下に降りていった。


「なぁ、この店、よく来てるの?」


「えっ、ああ……まぁ、時々来てるけど、実は大学の時バイトしてた。」


「へぇ……ここで。」


「うん……たまたま女将さんとうちの母親が知り合いで、それでバイトさせて貰ってた。」


「ふぅん。」


それきりまた沈黙になる。

















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