ライギョ
そんな事があるわけないじゃないか。


なりふり構わず取り乱しそうになる俺を僅かな理性が正常に引き戻す。


俺の明らかな異変に気付いた千晶さんがそっと俺の腕に手を添えてくれる。


「大丈夫?」


「…はい、大丈夫です。」


暑さもあり声が自分でも驚くほど掠れてる。


大丈夫。


落ち着け、俺。


ちゃんと相手を見るんだ。


決定的に違うじゃないか。


俺の目線の先にいる人物は安田であって安田じゃない。


そう、俺にはそれがハッキリと分かる。


何故なら、俺が見ている安田はーーー


中学生だから。


あの頃の、


ライギョ釣りの夜に消えてしまったあの時の、


安田だから。






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