ライギョ

呪い

目の前のーーー彼女は「原 妃咲(はら きさき)」だと名乗った。


当時の安田の面影を持つ彼女は当然、安田姓を名乗るものとばかり思っていた俺はそれについてもまた戸惑いを隠せなかった。


ーーー安田の身内じゃないのか?


俺の疑問はとても分かりやすく顔に出るらしい。


「あの時、ライギョにーーー、大阪城のお堀に引き込まれたのは兄です。」


彼女は淡々とした声でそう言った。


「ーーー兄?」


「正確には兄だった、です。」


「えっと…、私、あそこの自販機で何か買ってくる。何がいい?それとも何でもいい?」


千晶さんが気を利かせ彼女に問い掛けると


「何でもいいです。」


と全く表情を崩さずに彼女が答えた。


千晶さんが自販機へ向かったのを確認してから今一度、目の前の彼女に問いただす。


「一体、どういうつもりなのかな。ブログは俺達を呼び出す釣り、だったって事?」


ほんの少し心の奥に芽生えつつあった苛立ちを相手は中学生、しかも女の子じゃないかとなんとか冷静さを保つ。


「それ、聞きますか?」


なのにそんな俺とは正反対で相変わらず目の前にいる中学生は淡々と言葉を返してくる。


そう言えば自販機はすぐそこなのに千晶さんが中々帰って来ないのはきっと山中達に連絡をつけているのだろう。


「さっきの人がーーー小夜子さんですか?」


「えっ、」


事前に知らせた情報では竹脇のヲタク仲間としてもう一人女性を連れて行くとしか話していない。


小夜子と言う名前を出す訳もなく。いや、ネットの繋がりで本名とか出す訳ないだろ。


なのに、


「君はーーー、何を知っているの?何を知ろうとしているんだ?」


俺はあの時の夜を、安田が城の堀へと消えたあの夜のザワザワとした感覚をまた思い出していた。












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