桃の花を溺れるほどに愛してる
 聖くん……?


「それで……僕に何か御用でしょうか?」


 春人の問いに、聖くんはハッと我に返った様子だった。

 そうだった……聖くんのオススメの店に案内してもらおうと思っていたんだった。


「神代センパイに俺のオススメの店を教えたいなぁ……と思ったんっす」

「ダメです」


 にっこり。という擬音がつきそうな程のいい笑顔を浮かべながら即答した春人に、私は自分の耳を疑った。

 えっ……。

 今、ダメって言った?

 なんでも許してくれそうな仏様のような笑顔を浮かべておきながら、“ダメ”……って、アンタはどんなあまのじゃくだよっ?!

 あまのじゃく本人がビックリするくらいのあまのじゃくぶりだったよっ?!今っ!


「それは……どうしてっすか?」

「ただでさえか弱い桃花さんを、夜遅くまで連れ回すなんてそんな下劣なマネ……僕には出来ませんっ」


 かっ、か弱い……?

 なんか今幻聴が聴こえたような気がするけど、それは百歩譲って置いておくとして……夜遅くまで連れ回すって、何を想像しているんだよ?!アンタはっ!


「あのね!春人。フツーのお店だよ?ケーキが美味しいって聴いたから、食べてみたいんだけど……ダメ?」

「ダメなわけないじゃないですかっ!さぁ、行きましょうっ!」


 私が首を傾げて聞いた瞬間、春人はそう言って車のドアを開けた。
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