桃の花を溺れるほどに愛してる
「……お前のせいだ」


 静かな部屋の中で発された榊くんの言葉が、妙に大きく響く。


「お前が桃花ちゃんの前に現れるから、俺のすべての計画が狂った!」

「……知らないな、そんなこと」

「お前が!お前が!お前がっ!!!お前が桃花ちゃんの前に現れなければ、桃花ちゃんは俺のモノだったのに……っ!!!」


 拘束されている桃花さんを背に、榊くんは血走った目で僕の方を向く。

 怒鳴り散らすように叫ぶ彼の言葉には、怒りなどの負のすべての感情が詰まっているように聴こえた。


「……たとえ彼女が僕を選ばなかったとしても、君だけは選ばなかったと思うが?」


 嫌われて、軽蔑されて、刑務所に放り込まれたとしても、僕の気持ちは変わらないだろうし、この気持ちを抱いたまま僕は死を選ぶだろう。

 そんなことになっていたとしても、桃花さんは榊くんだけは選ばない……そういう確信が、僕の中にはあった。


「はぁ……?」

「彼女は本当に優しい人だが、君と付き合うだけの優しさは持ち合わせていない」


 誰のせいで桃花さんは記憶を失ったと思っているんだ。

 薬を大量に飲み、自殺未遂をしたのは彼女自身だけど、その原因を作ったのは誰でもない榊壬……君なんだ。

 たとえ桃花さんが榊くんを許しても、僕だけは一生……許すことはないだろう。

 君のような奴に桃花さんを奪われるくらいなら、いっそうのこと僕は君を殺し、そのあとに僕も死のう。
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