桃の花を溺れるほどに愛してる
「桃花さん……!」


 名前を噛み締めるように呼びながら、椅子に座らされたまま拘束されている彼女を、力いっぱい抱きしめる。


「春人……苦しいよ……」

「あっ、すみませんっ」


 力を入れすぎたのか、桃花さんは僕の腕の中で苦しそうに身をよじったため、僕はパッと離れる。

 桃花さんと同じ目線になるようにしゃがみ込むと、赤く腫れ上がった桃花さんの頬をそっと撫でる。


「痛いですか?」

「ちょっとヒリヒリする、かな」


 苦笑いともとれる、弱々しく微笑む彼女を見て、僕は察する。

 ……嘘だ。本当はとても痛むのだろう。頬の腫れのあまり、今の彼女はまともに口を動かすことが出来ないでいる。

 僕がどれだけ彼女を見守っていたと思うんだ、彼女が嘘をついているかどうかぐらい……僕には分かる。


「……申し訳ございません」


 僕は彼女の目を真っ直ぐに見つめながら、謝罪の言葉を口にした。

 ――彼女が傷付いたのは、僕のせいだ。

 僕が桃花さんの傍にいなかったから。僕がすぐにでも桃花さんの傍に寄ってあげられなかったから。僕が桃花さんを守ってあげられなかったから。僕が……。


「だめ」


 頭の中でグルグルと、何度も、桃花さんを傷付けてしまった原因を巡らせていると、それを制するように、桃花さんが口を開く。


「だめだよ、自分を責めたら」


 まるで、僕の頭の中なんてお見通しだと言わんばかりに、桃花さんはそう言った。

 ……不覚にも、その言葉が嬉しいと思ってしまった。
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