桃の花を溺れるほどに愛してる
「だって、春人は何も悪くない」

「桃花さん……」


 ――例えるなら、暗闇の中から救い出してくれるような言葉。

 桃花さんにそう言ってもらえて、少しだけ気が楽になったような気がした。


「私のことより、春人は大丈夫なの……?」


 桃花さんの今にも泣き出してしまいそうな声に、僕はハッと気付く。

 そうだった、榊くんに鉄の棒で頭や身体を殴られたんだっけ。

 桃花さんの……安否の心配のことが頭の中でいっぱいで、僕自身が怪我をしていたことを忘れていた。

 殴られたところを手で触れてみると、ぬめりと真っ赤な血が付着する。

 でも……なぜだろう。不思議とそこまで痛みは感じなかった。

 それほどまでに、桃花さんのことで頭の中がいっぱいだから……?

 そう考えると、流石にそんな自分に呆れて、笑ってしまう。


「大丈夫です」

「でも……そんなに大量の血……」

「殴られたのが桃花さんではなく、僕の方でよかったと本当に思います。桃花さんを守って出来た怪我なんだと思うと、痛みなんて感じず、むしろ誇りに思うんですよ」


 桃花さんを安心させるよう……にっこり、微笑んでみせた。


「縄、解きますね」


 僕は桃花さんの背中側に回り込み、手足を縛ってあるロープを解く。

 力任せに解こうとすると解けない仕組みになっているが、ちゃんと手順を踏めば、するりと簡単に解けた。

 拘束されている間、桃花さんは力任せに解こうとしていたのか、手足に縄の跡がくっきりと残っている。
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