桃の花を溺れるほどに愛してる
 桃花さんは僕の言葉に納得していないようだったけれど、それ以上、何も言ってこなかった。

 今頃、聖くんはどうしているだろうか。ちゃんと警察や病院に連絡……出来たのだろうか。

 そんなことをふと考えていると、桃花さんの背後で榊くんがゆらりと立ち上がるのが見えた。


「! 桃花さん!」

「えっ?」


 桃花さんを庇うように、僕が慌てて桃花さんの身体を抱きしめ、背中を榊くんに向けた瞬間――背中に強烈な痛みが突き抜けた。


「ぐっ……?!」


 何が起こったのか、一瞬だけ理解が出来なかったけれど……。

 これは、もしかして……隠し持っていたナイフで、背中を刺された……?


「春人?!」

「……っ、だい、じょうぶです……」

「大丈夫じゃないでしょ?!」


 僕の腕の中からするりと抜けた桃花さんは、僕を庇うように立ち、僕の背後にいる榊くんをジッと睨んだ。

 榊くんの手にナイフは握られていない……ということは、ナイフは僕の背中に刺さったままなのか……。

 これは……下手に抜かず、そのままにしておいた方がいいかな。抜いたら血が溢れ出てしまうから。


「榊先輩……アンタ、自分が何をしているのか分かっているの?!」

「桃花ちゃん……俺は桃花ちゃんをその異常者から救おうと……!」

「異常者はどっちよ!」


 榊くんは、先程に比べると、驚くほどに落ち着いている様子だった。

 まるで……自分の行っている言動が正しいと信じているみたいに。
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