笑わぬ黒猫と笑うおやじ
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「………あれ」
翌日の朝。いつものように仕事場である古本屋へと行ったら、何故かお店が締まっていた。
おかしい。扉こそしまっているものの、私が入ってこれるようにいつも鍵は空いてる筈なのに。
もしかして、今日は休みだったのだろうか?
どうしたものかと悩んでいると、
「あれ……お嬢ちゃん、もしかして撫子ちゃん?」
「…え?」
知らない人に声をかけられた。
反射的に振り向くと、中年男性がへらりと笑みを浮かべて立っている。
黒い髪が少しぼさっとしてるせいか、それとも無精髭のせいか、少しだらしない感じの人に見える。
……が、物凄く顔は整っている。
すらりとした体躯もあわさって、自然とその人を食い入るように、見てしまう。
「(…色気のある、かっこいいおじさんだな)」
ぼんやりとそんなことを考えていると、声を掛けてきた男は、ちょっと待っててねーなどと言いながら鍵がしまっていた扉をあけていた。
……もしかして、この人がお爺さんの息子さん?
確か昨日お爺さんが話していた、息子が居るって。
年とかまでは聞いてなかったけど、多分、そうなんだろう。
「いつも親父の話相手になってくれてありがとうね、撫子ちゃんの話、よく聞くよ~」
どうやら、私の読みは当たったようだ。