カリス姫の夏
「さやかさんも華子さんも、わたしは悪くないって言ってくれたけど……
じゃあ、誰が悪かったんだろう。
誰のせいで、こんなことになっちゃったんだろう」


横に座る華子さんは無言のまま、窓側に座る私に顔を向けた。返答を期待していたわけではなかったが、華子さんの意見も聞いてみたいとも思う。


「さやかさんは元々、わたしと話がしたくってわたしを捜してただけだったんですよね。
で、見つけて嬉しくってわたしのツイッター、フォローしただけ。

さやかさんのファンは、さやかさんのことをもっと知りたいって思って、さやかさんが好きな物を調べただけ。
ちょっと行きすぎてわたしの事、さやかさんに教えてあげたいって思っただけ。
さやかさんが喜ぶって思ったんですよね、きっと。

わたしのネット仲間は、わたしが困ってるって分かって助けたいって……
困らせてる張本人を懲らしめてやろうって思っただけ。

誰も悪意はないんです。
誰かのためになりたいって……
それって、どちらかっていうと善意ですよね。

誰も悪くないのに、誰かが傷つく。
そんなことあるのかな?

これってやっぱり、ネットの中だから起きたんだろうか。
リアルの世界だったら、こんなことにはならないんですか?」


私の話をだるそうに聞いていた華子さんは、持っていた携帯電話で自分の肩をトントンと叩くと悪口だけ吐き出した。


「子リス、あんたもさ、人にばっかり聞いてないで、少しは自分の少ない脳みそフルに動かして考えなさいよ」


「いいじゃないですか。
華子さん、わたしの倍以上生きてるんだから、意見くらい聞かせてくれたって」


「倍以上は余計よ!」

ムッとした表情を頭を左右に傾けながら消し去ると、華子さんの首はコキコキといい音を鳴らした。


「現実社会だってそんなことは起こりうるよ。
例えば……
うーん、ほら、あそこ……
あそこのおじいさん、見てごらん」


華子さんの視線をたどると、その先には通路を挟んで2ブロック前の座席に向けられていた。
< 277 / 315 >

この作品をシェア

pagetop