カリス姫の夏
どれほどの時間が経過したのだろう。
函館の夜景はすっかり姿を消し、その視界には深い闇しか映っていない。
変化の無い景色に飽きたのか、いつの間にか甲板には人もまばらになった。フェリーのエンジン音が、私の身体を振動させる。
「ぼく………
ここにいても……いいですか?」
藍人くんが口を開いた。
「うっ……うん……
別に……」
と、即座に答え横を見ると、そこには真っすぐに私を見つめる二つの瞳があった。
「僕、莉栖花さんを守りきる自信なんてありません。
でも……
でも……
ずっと、そばにいてもいいですか?」
「ずっと……?」
藍人くんの言葉を反復し、言葉の余韻をかみしめた。
「秋も冬も……来年も再来年も……
ずっと近くにいて、莉栖花さんを見ててもいいですか?」
暗くてよかった。
恥ずかしさに顔を背け、小さくうなづいた。藍人くんが気づかないかもしれないほど小さく。「うん」とノドの奥で響いた返答は、波にさらわれた。
この先、永遠にこんな時間が続くような、淡い期待が私を包み込む。
手すりに置かれた私の左小指に、藍人くんは遠慮がちに自分の右小指を重ねた。ほんの数センチだけ重ねられたその指が、決して離れるものかと繋がっている。
そして、私の体温は急上昇した。冷たい潮風が私の頬をなでて髪を揺らしていっても、この体温が下降する気配はない。
反対に藍人くんの手は小刻みに震えていた。頼りないほどにわずかな結びつきから、彼の緊張が伝わる。
私は顔を背けたまま、藍人くんの右手に自分の右手を重ねた。
藍人くんの震えが止まりますように、と願いを込めて。
函館の夜景はすっかり姿を消し、その視界には深い闇しか映っていない。
変化の無い景色に飽きたのか、いつの間にか甲板には人もまばらになった。フェリーのエンジン音が、私の身体を振動させる。
「ぼく………
ここにいても……いいですか?」
藍人くんが口を開いた。
「うっ……うん……
別に……」
と、即座に答え横を見ると、そこには真っすぐに私を見つめる二つの瞳があった。
「僕、莉栖花さんを守りきる自信なんてありません。
でも……
でも……
ずっと、そばにいてもいいですか?」
「ずっと……?」
藍人くんの言葉を反復し、言葉の余韻をかみしめた。
「秋も冬も……来年も再来年も……
ずっと近くにいて、莉栖花さんを見ててもいいですか?」
暗くてよかった。
恥ずかしさに顔を背け、小さくうなづいた。藍人くんが気づかないかもしれないほど小さく。「うん」とノドの奥で響いた返答は、波にさらわれた。
この先、永遠にこんな時間が続くような、淡い期待が私を包み込む。
手すりに置かれた私の左小指に、藍人くんは遠慮がちに自分の右小指を重ねた。ほんの数センチだけ重ねられたその指が、決して離れるものかと繋がっている。
そして、私の体温は急上昇した。冷たい潮風が私の頬をなでて髪を揺らしていっても、この体温が下降する気配はない。
反対に藍人くんの手は小刻みに震えていた。頼りないほどにわずかな結びつきから、彼の緊張が伝わる。
私は顔を背けたまま、藍人くんの右手に自分の右手を重ねた。
藍人くんの震えが止まりますように、と願いを込めて。