カリス姫の夏
石井さんの言葉が私の心にしみわたる。にっこりほほ笑む私からは「そうですよね。お互い、ネットには気をつけましょうね」と素直な言葉が出た。
両手でしっかりハンドルを握り、安全第一をモットーの運転を続ける石井さんは、バックミラーで私の顔をチラリと見た。
「多部さんさー、なーんかこう、明るくなったね。
初めて一緒に仕事した時より、こう、ハキハキしてるっていうか……
笑顔もいいよ。
うん、可愛くなった」
石井さんの言葉に、藍人くんはなぜだかムッとしたが、私はまんざらでもなかった。あからさまなお世辞でも褒められると嬉しい。
私、変わったのかな。
少しは変われたのかな。
深夜の高速道路は交通量も激減し、車はスイスイと目的地を目指した。
石井さんの介護タクシーはかなりの年代物らしく、加速するたびにブォーンブォーンと不機嫌な音を鳴らす。エアコンの効きも後部座席は今一つだが、面倒なのか予算が無いのかこの夏修理する予定はなかったようだ。
仕事放棄のエアコンに見切りをつけて、私は後部座席の窓を少し開けた。窓からは排気ガスの臭いの交じったぬるい風が吹きこんだ。北海道の秋風とは一味違う。それでも、つい数日まえまでさまよっていた熱風ではすでになかった。
あと数日で、新学期が始まる。
この夏、起きた出来事は良くも悪くも私の経験値としてデータには残された。しかし、私自身が変わったのかと問われれば、胸を張って返答はできない。だいたい、何をもって変わったと言うのかが、分からない。
隣に座る藍人くんに目線を送った。
私と同様、一睡もしていない藍人くんは、ゆりかごのような車の振動に耐えきれず、こっくりこっくりと居眠りし始めた。
私なんかに気を遣わないでさっさと寝ればよかったのに……
カバンに入れていたカーディガンを、彼にそっと掛けた。車窓から吹き込む風が、私を眠りの国へ誘(いざな)う。目を閉じ睡魔と手を繋ぐと、私のまぶた裏には、新学期からの学校生活が映し出された。
両手でしっかりハンドルを握り、安全第一をモットーの運転を続ける石井さんは、バックミラーで私の顔をチラリと見た。
「多部さんさー、なーんかこう、明るくなったね。
初めて一緒に仕事した時より、こう、ハキハキしてるっていうか……
笑顔もいいよ。
うん、可愛くなった」
石井さんの言葉に、藍人くんはなぜだかムッとしたが、私はまんざらでもなかった。あからさまなお世辞でも褒められると嬉しい。
私、変わったのかな。
少しは変われたのかな。
深夜の高速道路は交通量も激減し、車はスイスイと目的地を目指した。
石井さんの介護タクシーはかなりの年代物らしく、加速するたびにブォーンブォーンと不機嫌な音を鳴らす。エアコンの効きも後部座席は今一つだが、面倒なのか予算が無いのかこの夏修理する予定はなかったようだ。
仕事放棄のエアコンに見切りをつけて、私は後部座席の窓を少し開けた。窓からは排気ガスの臭いの交じったぬるい風が吹きこんだ。北海道の秋風とは一味違う。それでも、つい数日まえまでさまよっていた熱風ではすでになかった。
あと数日で、新学期が始まる。
この夏、起きた出来事は良くも悪くも私の経験値としてデータには残された。しかし、私自身が変わったのかと問われれば、胸を張って返答はできない。だいたい、何をもって変わったと言うのかが、分からない。
隣に座る藍人くんに目線を送った。
私と同様、一睡もしていない藍人くんは、ゆりかごのような車の振動に耐えきれず、こっくりこっくりと居眠りし始めた。
私なんかに気を遣わないでさっさと寝ればよかったのに……
カバンに入れていたカーディガンを、彼にそっと掛けた。車窓から吹き込む風が、私を眠りの国へ誘(いざな)う。目を閉じ睡魔と手を繋ぐと、私のまぶた裏には、新学期からの学校生活が映し出された。